レシピが産まれる思考過程 第4回
No4[ビーツのポタージュ]
フランス料理では、ポタージュ(スープ)というのはとても重要な料理。
世界でもっともうまみの強い濃厚なスープを作るのが、フランス料理ではないか?と思っている。 今では、あまり人気がなく、お店ではなかなか出てこないのが残念。
インスタ映えする料理がもてはやされる時代には、スープは面白みが出しにくいからだろうか?
修行時代は、散々このスープを作った。
初めてクレームデュバリー(カリフラワーのスープ)を作った時は、そのうまさに仰天した。
こんな美味いものが世の中にあるのか? 駆け出しの僕には、奇跡のようなスープだった。
しかし、である。 カリフラワーのスープというが、実際には、バターでポロネギを炒めて甘味をだしたら、カリフラワーいれて、水分が飛ぶようにさらに炒めて、そこから鳥のブイヨンをいれて、煮てミキサーでピュレにして、牛乳で伸ばすわけ。
つまり、「バターとポロネギとカリフラワーと鳥のブイヨンと牛乳のスープ」というのが、正確な表現。
美味しいけど、カリフラワーの風味自体とは異なるものを作っていることに、いつしか疑問を持ち出した。
あるシェフの料理教室に参加した時、栗のスープが出た。 これも、栗以外にいっぱいの材料が入るスープ。 確かに美味しかった。
でも隣のお客様が「美味しいけど、なんのスープだかわからない」 とお友達と話しているのが聞こえた。
やっぱり、そう思うよね。 すごく記憶に思った。
もちろん、レシピは星の数ほどあって、シンプルに野菜を生かして、炒めるバターと伸ばすブイヨンしか使わない、素材の味重視のレシピを公開してる超有名シェフもいらした。 いろいろなやり方があるんだなということは、年数を経ていくうちに学んでいった。
でも、派手な食材を駆使してゆく世界が主流の中、その気づきはずーっと記憶の底に沈んだままだった。
6年前、八ヶ岳にてシェフを務めることになって、東京から来た僕が最初に驚いたのが、野菜の圧倒的な美味しさだった。
準備の下ゆで段階の野菜があまりに美味しい。
戸惑いながら煮含めると、とたんに、お行儀のよい管理された優等生みたいな味になってしまう。 最初の感動が失われてゆく。
これまで、煮含めることを当たり前にしてきたが、ただ塩茹でしただけのほうが、目が醒めるほど美味しい、という事実は僕の世界観を破壊してしまった。
なので、当初は毎日戸惑いながら料理を続けていた。
ある時、ふと大根を下ゆでしたお湯(塩入り)を何気なく飲んでみた。 実にうまかった。 大根の味がとても優しく、しかし鮮明に出ていた。
これは、まさに大根のブイヨンだ。
ここから、強烈な直感が来た。
これだと、飲む野菜が作れる!
それ以来、作り続けているのが、「飲む野菜」のスープだ。
塩、水、野菜だけ。
色々なバリエーションがあるが今回は、ビーツをつかったものを紹介する。
これも、ビーツを塩茹でしてピュレにしたものを、その茹で汁で伸ばしたもの。
鮮やかな、鮮やかな赤い色が、とても綺麗にしあがる。
ビーツには、独特の甘さと泥臭さがあるので、クミンシードを少し浮かべて、泥臭さを感じた舌をリセットできるようにしている。これでビーツ自体の甘さをより鮮明にできるように工夫した。
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